~子どもたちの活躍と幸せを育む対談コラム~中村さん編①
いま注目されているSTEM教育を通し、子どもの教育の可能性について専門家にお話しを伺う対談コラムの第一弾です!
今回は「STEMON」を運営し、小学校で先生としても活躍されていらっしゃる中村さんとお話ししていこうと思います。
中村一彰さん 二児の父 1978年5月23日生まれ 埼玉県出身
小学校教員免許、中学・高等学校教員免許、LEGO® SERIOUS PLAY® トレーニング修了認定LSPファシリテーター
株式会社Viling代表 http://www.viling.co.jp/ アフタースクール事業「スイッチスクール」、STEM教育事業「STEMON」などを運営
サッカー少年はいま~たどり着いた教育への道~
親子時間スタッフ(以下親子):
本日はSTEM教育スクールの第一人者、【ステモン】の中村一彰さんに子どもの教育についてお話をうかがおうと思います。
まずは中村さんの魅力を皆さんにお伝えしたいので、中村さんのことをお聞かせください。
中村さんはどんな子どもだったんですか?
中村一彰さん(以下中村さん):
幼少期から外を駆け回りサッカー少年で活発な男の子でした。自由に遊んでましたね、勉強は人並みにはしていましたが。
父は技術屋で職人気質で寡黙でして、資格取るのに夜中まで勉強していたのを覚えてます。
大人になっても遅くまで勉強するなんて大変だなと思いました。
親子:そんな中村さんの子どもの頃の夢はなんだったんですか?
中村さん:将来の夢はプロのサッカー選手になりたいと思ってました!
ですので高校はサッカーの名門校でプレーをしていました。
その後大学でもサッカーを続け、学部は教育学部に入り教員を目指しました。この時の経験が今の教育サービスに大きな影響を与えました。
親子:どのような学生時代を送ったのですか?
中村さん:高校時代は全国でも強豪の名門校だったので、とにかく毎日監督やコーチから細かく指示されて、言われたことをこなすのに精一杯だったんですが、大学のサッカー部に入ると監督は4年間の在学中に一度も練習には来なくて(笑)
毎日自分でなにをするか考えないといけない環境でサッカーをしていたんですね。
そんな中で部長をやらせてもらいまして、練習を考えたり後輩たちの指導をしたり選手起用を決めたりと、サッカーを通して【自分自身で考える】という経験をしました。
親子:ですが、その後一般企業に就職されたとのことですが、先生を目指してたのになぜでしょうか
中村さん:教育実習で1ヶ月ほど学校現場を学ぶのですが、教科書通りと言いますか画一的な集団行動にならせざるをえないことを知りました。
自分自身は高校や大学での経験のなかで、多様性・個性の大事さを痛感していましたので・・・
例えば高校のサッカー部では、中学卒業と同時に親元離れて全国から夢を追いかけてくる人ばかりです。普通は地元の高校に行きますよね。大学では全て自分たちで考えて決める環境という経験からそう思いました。
閉鎖的な学校の中で、決められた枠組みをより良く伝えることは重要な役割ですが非常に制約があるんですよね。
学校では多様性や個性を大事にしにくい環境だったんです。画一的な教育を自分が先生になってやる側になるのは抵抗感がありました・・・・。
こんなことを感じてすごく悩んだ末、先生にはならないという選択をしました。
親子:そうだったんですね、それから中村さんはどのような道をえらばれたんですか?
中村さん:卒業して最初に就職をしたのは不動産企業でした。住宅が好きと言う安易な理由です(笑)
東証一部の大手企業で、とても良い人材が集まっている会社でした。そこでは営業として4年間働いていました。
その後、その会社の先輩が立ち上げた株式会社エス・エム・エスに転職しました。
親子:なぜ大手の安定した環境から転職を考え今にいたるんですか?
中村さん:不動産会社は経営も一緒に働く仲間も非常に優秀で素晴らしい環境だったのですが、不動産企業のバリュー判断は経営者が1人いればできるんですよね。
社員は自分の役割を真面目にこなすだけになってしまいがちで。
営業ができるだけではダメだ! と危機感が強くなりました。仕事の幅を広げたかったんです。
ビジネスやサービスをつくれる人に憧れました。それがきっかけですね。
親子:そんな経験をされて今のお仕事にたどり着いたのはなにが大きかったですか。
中村さん:大手で4年とベンチャーで7年半仕事をしてきて思うのは、大手はやることがわかりやすく用意されている。ベンチャーはやることから探さなければいけない(笑)
与えられたことをやっていれば良かった環境から、自分で考えて発掘しつくらなければいけない環境になりました。
このときの発揮すべき能力って、学校や受験では育まれないなと思いました!「学校教育」って・・・・怒りに近い感情が湧きましたね。
この経験で教育熱が深まりました。
学校も受験システムもすぐには変われない。民間なら変えられるのではないかと!
ものづくりを中心にした学習スクール「ステモン」って
親子:それでは、現在活動されていらっしゃいます【ステモン】のことをお話ししていきたいのですが。
創業が2012年ですが、当時の社会情勢ではだいぶ先行しているイメージがありますが、【プログラミング教育】・【STEM教育】を知っている方はほとんどいなかったんではないですか?
中村さん:そうですね、私自身も2013年にはじめてSTEM教育という言葉を知りました。
この仕事を始めた時、最初の半年間は国内外の教育サービスを見て回ったんです。幼児教育や進学校やインターナショナルスクールなど。
幼児教室は当時2歳の娘をつれて体験会に行きました(笑)。 個人で主催してるものから大手企業のものまで。
シンガポールのインターナショナルスクールやアメリカで脳科学と運動を研究している教育団体なども、国内外問わずとにかく全て自身の眼で見て確かめなければと。
その中で最も強く共感したのが、「モンテッソーリ教育」と「探究型学習」、そして「STEM教育」でした。
特にSTEM教育はこれから間違いなく重要になると感じました。
でも当時国内ではやっているところがなかったんです。
親子:なぜSTEMが一番素晴らしいと思ったんですか?
中村さん:れからの社会に出たあと、とても重要な力を育めるからです。
社会で活躍しやすい力は時代によって変わって行きます。
農耕社会では筋力体力が重要でしたが、工業社会になって筋肉が機械に代わり、読み書き算数のできる人が活躍するようになりました。
次にコンピューターの台頭で情報社会へ移行し、計算はコンピューターが処理するようになり、コンピューターを活用する人や苦手なところを補う人が活躍する社会になりました。
今後はAI社会へと移っていく中で、なにをするにもコンピューターが必要となります。コンピューターを活用しながら問題解決をする力、創造や表現をする力が重要になっていきます。
エンジニアだけでなく、お花屋さんでもケーキ屋さんでも同じく重要になってきているんですね。
それなのに学校の教科にも受験科目にも入っていない。だからコンピューターを活用する力を育む機会が全くないのが今の学校の現状なんですね。
子どものうちからテクノロジーに触れ、テクノロジーを活用して何かをつくってみるとか表現してみるとか、アートでも音楽でも良いのでそういう場が絶対必要だと思います。
もうひとつは教育のメインは学力、受験へと。良い大学に行くこと、そこに加熱しすぎてないかなと思うところがあって。計算が早く解ける、たくさん公式をしってる。これを身につけることは重要ですが、加熱しすぎることで思考の幅がとぼしくなったり、創造性が失われたりしていると思います。
しかも勉強はつらいもの、学ぶって苦しいものみたいになってしまうと非常に残念でありもったいないと思うんです。
それよりも学ぶことは楽しい!教科にとらわれず自分なりにつくっていい!表現していい!というのがこれからの社会すごく大事だと思うんです。
ですので、そのような遊ぶように学ぶ場をつくっていきたいなと思っています。
STEM教育はつくりながら学ぶことが醍醐味なんです。つくるって子どもにとってはとても楽しいことなんですね。
つくる活動と学ぶこと。この二つがSTEM教育はすごく相性が良いなと思っています。
親子:中村さんがおっしゃるように、画一的な教育が学ぶことをつまらなくしてしまっているんだなと。
本来新しい知識が入ることって、とても楽しいことですもんね。
そういう意味では海外の教育は柔軟性がありますよね。
中村さん:そうですね、アメリカのボストンにあるタフツ大学では、教育学部と工学部が共同で研究施設をつくって運営しているんですよ。
そんなことをできているのは世界で唯一なんですよ。
地域の子どもたちに工学的な力やテクノロジーを育む力を、教育学の観点で実践していくという取り組みをしているんです。
ステモンではタフツ大学の学生を招いてワークショップを開いたりしています。
ワークショップでは弦楽器などつくるんですが、つくる楽しみだけでなく、そのきれいな音色は空気の振動であるってことを学んでいくんですよね。
とても分かりやすくて素晴らしい体験だと思います。
そういった想いからサービス名もSTEMという言葉を入れたくてSTEM・ONでステモンなんです。!
認知から周知へ
親子:これだけ魅力的な教育方法ですが、認知されるまではご苦労もおありかと思いますが。
どのような活動でファンを増やしていったんですか?
中村さん:当時誰も、特にお母さん達は聞いたこともなかったんです。ですが間違いなく大事な教育だと確信がありました。
さいわい学童も運営していたので保護者の方と密着したコミュニケーションの取れる関係がありました。
説明する時間がいっぱいあり保護者と蜜に語り合うことができる時間があったことが良かったです。
体験会の60分で理解してもらうのは難しいです。つくることで学ぶということはすぐに点数上がる、単語が覚えられるといったことではないので。
「これをやってなにが身につくんですか?」と良く言われたこともあります。
一方でコアなファンも増えていきました、まだ少数ですが(笑)
親子:プログラミング教育が世の中で取り上げられるようになったのは大きかったですよね。
中村さん:そうですね、NHKでも番組が始まり認知されるようになっていきましたね。
私たちは2014年からプログラミング教育にも力を入れていました。2015年度には多摩市立愛和小学校の正課の中で50時間ほど授業をしまして、これは公立小学校では異例です。
この実績を評価していただき、今年は大阪市教育委員会や小金井市立前原小学校で授業づくりを支援しています。
ただ、もともと私はSTEM教育をやりたいと思っていて、プログラミング教育はその中の1つと考えています。実は海外にはプログラミング教育という言葉はなくて、「コンピューティング」とか、「コンピューターサイエンス」という授業の中の1つなのです。私たちはこの位置付けを大切にしていきたいと考えています。
とはいえ、プログラミング教育がブームになることで、社会の目線が広がるのは良いことですね。
幼児教育の誤解。早くから段を昇るのと、高いところに到達できるのは違う
親子:なぜ幼児や小学生を対象にしているのですか?
中村さん:小さいうちからSTEMに触れているべきだと思っています。あと、私がたくさん見てきた幼児教育の中で、「これは違うだろ」というものが結構あって、それに対するアンチテーゼでもあるんです。
幼児教育という言葉には、集団行動をしつけたり、計算処理などをやるものと、モンテッソーリ教育のような発達段階に合わせてのびのびと思考や発見をする教育と、大きく2つあると思っています。私は後者の方が大切だろうと思います。
モンテッソーリ教育は環境を整え間接的に子どもを導くもので、これが思考の深さや主体的な態度、自己肯定感を育むものです。
掛け算や割り算でも幼稚園のうちから学ばせて、できる子はどんどん伸ばしていった方が良いというのは賛成です。しかし苦手な子に無理をさせる必要はない。ほとんどの子どもが2年生3年生になればできるようになるんです。
早いうちに階段を昇って行くのと、最終的に高いところに到達できるのは違うんです。
早さを求めるがゆえに失っているものが有るのではないかなと。早さを求めるのではなく、発達段階に応じてやっておいた方が良いことがあると思っています。
親子:あれができたこれができたと結果ばかり急いでしまうと、その過程で失うものが大きそうですね。
幼児教育もピン切りですよね。のびのびやらせてくれるとこもあれば、厳しく接することを良しとするとこも。
中村さん:私は興味のあること、好きなことをとことん夢中になって取り組み続けることの大切さを知ってほしいなと。
子どもが委縮してしまうようなことがなく、子どものうちは周りのことを気にせず好きなことに夢中になってることが良い幼児教育なのだと思います。だからステモンでは夢中になって作る時間を大切にしています。
学校教育の現状へ ②へ続く