重度自閉症の兄とお出かけ~迷子になったときの対策、予防策~
自閉症の兄は、人ごみの中やバス停などで何度も迷子になりました。
自閉症の子どもは健常な子どもに比べて、迷子になりやすいと言われています。なぜ自閉症の子どもは迷子になりやすいのか、当時の私の母がしていた迷子対策、現在有効な対策について、私の体験を通してお話ししたいと思います。
勝手に1人でバスに乗ってしまった兄
「お母さん。お兄ちゃんが勝手にバスに乗っていった。」
当時3歳だった私はそれを母に言うだけで必死でした。
15分ぐらい前、母と自閉症の兄、私の3人で買い物へバスに乗って行くため、家から歩いて5分ぐらいのところのバス停で待っていた時の出来事です。
そのバス停は終点で、バス停はロータリーになっていました。私はベンチに座っていて、兄はバス停にあった自転車置き場の後ろで石いじりをしていました。ふと母が忘れ物に気付き「忘れ物をした。家に取りに帰るのできちんとここで座って待っていて」と言われました。兄は隅っこの方で石いじりに集中していたので、家に忘れ物を取りに行っている間ずっと石いじりをしているし、バスはしばらく来ないだろうと母は思ったのでしょう。
今まで人ごみの中で兄が迷子になったことがあったそうですが、バス停は私、母、兄の3人だけしかいなかったので迷子にはならないと思っていたのでしょう。人ごみではないので母は油断をしたのだと考えられます。母は「ここで待っていてね」と言ったあと急ぎ足で家に忘れ物を取りに帰りました。
少ししてバスがやってきました。しばらくバスがバス停に止まっていました。私は母が「ここで待っていてね」と言っていたので、きちんとベンチに座って待っていました。
ふとその時です。自転車置き場の後ろに隠れてじっと石いじりをしていた兄が、いきなり走って出てきてバスに乗ってしまいました。バスはすぐさまドアを閉め出発してしまいました。一瞬の出来事でした。3歳だった私はバスに向かって一目散に走る兄を止めることができず、見ていることしかできませんでした。
良くないことが起き、早く母に知らせなくてはと、そればかり思っていました。母がバス停の戻ってくるまでの時間がかなり長く感じました。
ようやく、母がバス停に戻ってきたとき私は安心しましたが、母は私の報告を聞くと顔があおざめたそうです。すぐさま、母は公衆電話を使ってバス会社に電話をしました(携帯電話がなかった時代なので)。バスに乗ったバス停の名前、バスの行き先、バスが出発した時間をバス会社に伝えたそうです。
また、兄はその日名札をつけていたので、兄の名前や年齢を伝えました。名札をつけていたことが兄をはやく発見することにつながりました。
兄を発見するために母とバス会社の詳しいやりとりは覚えていませんが、最後は見知らぬ土地のバスの終点までバスに乗って兄をむかえに行ったのを覚えています。
ついつい、忘れ物に気が付いて家に帰ることがありますよね。忘れ物をして家に帰る時はめんどくさいかもしれませんが、必ず子どもと一緒に取りにかえりましょう。親が家に忘れ物を取りに帰っている間、兄が勝手に路線バスに乗っていったように大惨事になる可能性がありますよ。
自閉症の子どもは健常な子どもと比べて迷子になりやすい
自閉症の子どもは健常な子どもに比べて迷子になりやすい理由が5つあります。
1.自分がどこにいるのかわからなくなる
自分がどこにいるのかわからないため戻れなくなったり、目的の場所に到着できなくなってしまったりするそうです。
2.行動の切り替えが難しい
行動の切り替えが難しい子どもの場合、みんなと一緒に行動しているときにも自分が好きなことをやめられないため、みんなからはぐれてしまうことがあります。
3.衝動性があります
衝動性や多動性が強い子どもは迷子になりやすい傾向があります。興味のあるものを見つけるとすぐに向かっていってしまい、親や周りの人とはぐれてしまいます。
4.迷子になったことに本人が気づきにくい
周りに意識が向きにくいので、自分が親とはぐれてしまったことに気づかないこともあります。
5.迷子になったときに助けを求めにくい
迷子になってしまっても、周りに助けを求められない時があります。自分の気持ちを表現することが苦手なため、予期せぬ変化にうまく対応できなかったりすると、迷子であることを伝えられない子どももいます。
以上のことから自閉症の子どもは迷子になりやすいと言われています。
私の親がしていた兄の迷子対策
1.迷子札(名札)
私の親はかならず兄を連れてお出かけする時は、名札を兄につけていました。言葉が言えないので迷子になった時は名札を見て、警察など保護してくれた人に対応してもらっていたそうです。名札には名前以外にも、住所、電話番号、学校名などの連絡先が書いていたそうです。勝手にバスに乗っていったとき、人ごみの中で迷子になった時、名札が兄を発見するのに重要な手掛かりになりました。
2.迷子ひも
母の体調がすぐれない時でも兄は外へ出たがる人でした。無理やり家に押し込めると、どんどんと激しい音を立ててとび跳ねるので、近所から苦情がきていたことがよくありました。体調が悪くても家でじっとしていられないし、外に出ると走り回って母は常に追っかけなければいけません。体調が悪いときは走りたくなかったので兄に迷子ひもをつけて、公園のベンチで何時間もウトウトしながら過ごしたそうです。兄が走ってどこかに行こうとしてもひもでつながれています。自由にいけないので迷子になることは防止できます。
現在の自閉症の子どもに有効な迷子対策
私の母が子育てをしていたのは30年以上前の話です。現代、迷子ひもはひもを通じて子どもとつながっていられるため、確実な迷子防止になる反面、周囲の人からの目線が気になってしまいます。また、現代では迷子ひもは虐待という人もいます。
また、迷子札の場合は、迷子札に書かれた個人情報が悪用されることも考えられます。
最近は、そのようなことを考慮して、GPSなどの技術を活用した最新のサービスが数多く出ています。今の時代、自閉症の子どもの迷子対策方法、迷子になった時の対応は次のサービスを利用することが有効であると思われます。
1.GPS機能を使ったサービス
位置情報の精度がとても高くなっていることが特徴です。子どもが動いていれば、機器が動きを確認して1~2分間隔で位置を追跡します。学校や塾、家に着いて動かなくなくなると、機器は自動的にスリープモードに入ることで電池のヘリを抑えます。普段の行動とは違った行動をした場合には、自動的にアプリでお知らせしてくれます。
親はどのようなルートを通ったのか、履歴もアプリからいつでも確認ができることや、子どもが持つ端末にボタンがついていないので、子どもが誤作動する心配がない点もおすすめできます。
GPS機能を使ったサービスは、子どもだった兄の迷子対策に最もふさわしいシステムだと思います。お出かけをする時、兄がもつリックサックに入れておけば位置を追跡してくれるので、迷子になった時とても便利に思えます。
2.セキュリティ会社のサービス
セキュリティ会社の強みを活かした駆けつけサービスがあることです。このサービスも、GPSを活用して子どもの現在地が探査できます。また、子どもが持つ機器のボタンによって本人からの応答することができる、会話ができることがあります。それらの機能を活かして、反応がないなどの異常が見られた場合は、セキュリティ会社による駆けつけサービスが発動するサービスです。
駆けつけサービスが発動した場合には追加料金が発生することがあります。子どもが応答ボタンのシステムや会話ができるように操作できないなどで上手に使うことができなければ、駆けつけサービスを誤って発動させてしまう可能性もあります。
兄はおそらくかけつけボタンの意味を説明してもわかってくれないでしょう。間違えて駆け付けのボタンを押してしまう可能性があります。兄にとって少し危険なサービスかもしれません。
自閉症の症状は人それぞれです。自閉症の子どもでもある程度説明すれば駆け付けボタンの意味がわかる、ある程度会話ができる子にはこのセキュリティ会社のサービスが重要な役割を果たすかもしれません。
自閉症の子どもを連れてお出かけすることは正直大変です。しかし子どもは外に遊びに行くことが大好きです。私の親はしっかり迷子対策をしていろいろなところに連れていってくれ、私と兄は楽しい時間を過ごすことができました。
子どもが自閉症でお出かけをためらっている親御さんにこの情報が役にたってほしいと思い今回コラムで書かせていただきました。是非参考にしてみてください。