自閉症の人とのかかわり方~心のバリアフリーを実現しよう~
家族に自閉症、職場に自閉症、学校に自閉症の人がいたときあなたはどうしますか。
今回は自閉症の誤解を解くために自閉症とは何か、自閉症の人がいた場合のかかわり方について、私と兄の体験をもとにお話したいと思います。
自閉症の定義
自閉症の定義には一般的に「社会性の困難」「コミュニケーションの困難」「想像力が乏しく特定の物事にこだわる」という3つのことが挙げられます。
自閉症とは、3歳位までに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障がいであり、脳のなんらかの機能に不全があると推定されると定義されています。
自閉症のタイプ
自閉症のタイプ
自閉症のタイプには、大きく知的障がいを伴わない自閉症と知的障がいを伴う自閉症があります。
1.知的障がいを伴わない自閉症(高機能自閉症)
知的障がいを伴わない自閉症は知能指数がIQ70以上(健常者のIQはおおよそ100)で、知的障がいを伴わない自閉症です。知的障がいを伴わない自閉症には「アスペルガー症候群」「サヴァン症候群」などの症状が含まれます。
○見られる傾向
●おとなしい赤ちゃん
おとなしく無理をいわない赤ちゃんだったとよくいわれます。
●言葉の出始めが遅い
言葉の出始めや2語文へと展開していく時期が遅いことがありますが、話を始めると順調に言葉は増えていきます。
●会話がかみ合わない
人の話かけに反応しないことがある一方で、相手が聞いているかどうかにかかわらず、自分の話たいことを一方的に話すなど、会話がかみ合わない印象を相手に与えます。
●自分1人で好きなことに没頭して遊ぶ
自分1人で好きなことに没頭して遊ぶことが多く、同年齢の友達と集団で遊ぶことは一般的に苦手です。
●手先が不器用、運動が苦手
手先が不器用であったり、運動が苦手だったりすることがあります。
2.知的障がいを伴う自閉症
知的障がいを伴う自閉症は知能指数が70以下で、軽度から重度の知的障がいを伴っており、癲癇発作(てんかん)の発生や癲癇の脳波を持つ場合が多く見られます。知的障がいを伴う自閉症には「カナー症候群」などの症状が含まれます。
○見られる傾向
●言葉がほとんど獲得されていない
精神発達遅滞があって話言葉がほとんど獲得されておらず、叫び声のような声をあげるだけです。指さしで要求を伝えることも難しく、何かして欲しいことがあるときは相手の腕をとり、直接そこにもっていくことで伝えます(クレーン現象)。
●多動かつ衝動的
多動かつ衝動的で自分の思い通りにならないとしばしばパニックを起こします。人が集まるところに行けば、走ってその場を去ります。
●人への関心は希薄、
視線があいにくく、声かけにもまるで聞こえていないかのように反応しません。
●集団行動が苦手
集団行動が苦手でいつも自分の関心に基づいて行動します。紙をひらひらさせたり、ただ体を前後に大きくゆすったり同じようなことを飽きずに繰り返して過ごします。
兄は2の知的障がいを伴う自閉症です。言葉がしゃべれないので何かして欲しいことがあるときは相手の腕をとり、直接相手を連れて行って伝えるクレーン現象は見られます。多動かつ衝動的で、人が集まるところに行けば、走ってその場を去ります。人への関心は希薄で、向かい合って座ると目をつぶり、自分の用が済むとさっと席を立って逃げます。集団行動では好きな遊びばかりする、いすを左右に揺らすなど同じ動きを何度も繰り返します。
自閉症の特徴
自閉症の種類で紹介した2つのタイプの子どもたちは、まったく異なるタイプの障がいのように思える子どもたちですが、実はどちらも「社会性や対人関係構築の困難」「コミュニケーションの困難」「興味や関心を示すものが少なく、特定の物事にこだわる」などの点で共通した特徴を持ち、友達関係から外れて孤立しやすいという困難をかかえた「自閉症」という発達障がい児の姿です。
1.社会性や対人関係構築の困難
相手の気持ちを汲み取るのが難しいため、相手と気持ちの共感や共有を行うことができない、友達や仲間を作ることができない場合や、相手や他人に対し無関心である、興味を持てない事も有ります。そのために、人とのかかわりを持ち、集団の中で生活するのが非常に困難となります。
2.コミュニケーションの困難
自閉症の場合言葉に遅れや言葉自体が出ないことも多く見られ、「呼びかけても反応がない」「言葉が出ない」「返答がオウム返しになる」「長い言葉や文章が話せない」などの特徴が有ります。
3.興味や関心を示すものが少なく、特定の物事にこだわる
自閉症の人は興味や関心を示すものが少ないですが、ごく一部の特定の物事にものすごい興味を示し、その物事に強い執着心やこだわりを持つという特徴が有ります。
興味を示すものは「玩具・電車・車」などの物として存在するものから、「時間・音・香り・位置・色・順番・動き」など感覚的なものまで人により様々です。
また、自閉症の大きな特徴として「常同行動」「繰り返し行動」というものがあり、手や頭を何度も振る、DVDや動画の同じ場面を何度も繰り返して再生する、同じ場所を行ったりきたりするなどの行動が見られます。
自閉症の人とのかかわり方
人とのかかわりが困難な自閉症の方とどのようにかかわったらよいのでしょうか。私、母、父は次の8つのことを頭におきながら兄とかかわっていました。
1.自発的なコミュニケーション力を育てましょう。
○言葉を話す子ども
簡単な言葉で伝える練習、自分から表現できる方法(絵、写真、実物、カードなど)で伝えることができるようにしましょう。
○言葉を話さない子ども
自分から表現できる方法(絵、写真、実物、カードなど)を使って、意志を伝えることができるように導きましょう。
兄の場合は実物を持ってきて「あー、あー」と声をだす。
2.ほめることで「その行動でよいのだ」と認め、やる気を出させましょう。
得意なことはしっかり褒めてあげましょう。私の兄は自分が使ったものはきっちりお片付けします。お片付けに関しては私より上手です。
3.見通しが立つように環境を整えましょう。
スケジュールを立てることが必要です。出かけ先(保育園・幼稚園・小学校など)用のかばん・靴を見せる、日課表をはる、スケジュールの変更は早めに予告するようにしましょう。
4.こだわりをうまく生活の中でいかすことを考えましょう。
兄は食器棚などの引き出しが空いていると、食事中であろうが必ずしめにきます。きっちり後片付けをするこだわりをいかして、洗濯ものをたたませる、水まきなどのお手伝いをさせています。
5.本人の興味や能力に合わせて運動や手遊びをうまく取り入れましょう。
山歩き、マラソン、ボール遊び、水泳、自転車、粘土遊び、折り紙など本人の得意なことをさせてみましょう。
兄は歩くこと、自転車を乗ることが得意なので、子どものころ家族で山登りやサイクリングに出かけていました。
6.人と付き合うときのルールを教えましょう。
○言葉を話せる子ども
人に話かけるとき、いきなり自分の言いたいことを言ってしまうことが多いときは、「ちょっといいですか」と相手の了解をもらってから話始めるように教えましょう。
○言葉を話せない子ども
保護者や家族が協力して、こういう時はどうするかお手本を示すと効果的です。家の中で物を借りるときは必ず「かして」と一言声をかけてるように母は私、父、兄に強く言い聞かせていました。兄の「かして」のサインは手をたたいて「あー」の一言でした。
7.音が嫌なのかな?…苦手な感覚への配慮をしましょう。
苦手な、音、におい、感触などを理解し、配慮しましょう。
8.パニックや混乱は何のサイン。
どこかが痛い、体調が悪い、音に過敏になっている、本人の能力を超えた要求をされている、周りの関わり方がわかりにくいなどの理由が考えられます。
以上8つが私、母、父が気を付けていることですがかかわり方は人それぞれです。困ったことがありましたら、専門機関に相談しましょう。兄には療育施設で発達の主治医がいて、よく母は月に1度兄のことで相談に行っています。
きょうだい児が注意しておきたい事(私の体験談)
1.所有物の管理
自閉症の症状は人それぞれですが、兄は絵本や本、広告を破るくせがありました。だから学校の教科書など破られないように鍵がついた勉強机の引き出しにしまっていました。うっかり作文の宿題をしまい忘れて破られ、もう1度作文を書き直ししたことがありました。
自分の大切なものは必ずあります。大切な所有物にいたずらされたくなければ責任もって管理しましょう。
2.必ず目的地から帰る時は来たメンバーで帰る
来たメンバーでないと帰らないというこだわりがありました。よく目的地に家族だけで行くと、帰り道家族の1人が用事などでいなくなるとパニックになる兄がいました。目的地に行くメンバーと目的地から帰るメンバーが違うとパニックになる症状は、兄が中学生になるころまで続きました。
必ず、目的地に家族で行ったとき、一旦家に帰っから用事をするようにしました。
自閉症を取り扱った作品
私が自閉症の特徴がわかりやすく描かれていると思った作品で、自閉症を多くの方に理解していただくために読んで欲しいと思う作品です。
1.君が教えてくれたこと
知的障がいを伴わない自閉症(高機能自閉症)で自分の感情を人にうまく伝えることができないが、天気予報に秀でた才能を発揮し自らのサイトを開設している女性と、恋人を亡くしたトラウマから精神科医をやめてしまった予備校講師との交流を描くドラマです。
このドラマはTBSで放送されたドラマで、主人公の知的障がいを伴わない自閉症の女性の年と、当時の兄の年が同じ20歳でタイプは違うけど同じ自閉症という点で共感する部分がありました。
また、私自身も気象に興味を持ち始めていて、このドラマをきっかけに気象の勉強をしたいと思うようになり、大学は海洋気象の分野を専攻しました。
2.グッドドクター
原作は韓国です。自閉症ながら、天才的暗記力と人体のあらゆる器官の構造を把握する脅威の空間認識能力をもつ高機能自閉症の青年のお話です。そんな彼が障がいに対する偏見や自分自身の弱さを乗り越え、小児外科医を目指し成長していく姿を描いたヒューマン・ピュアストーリーです。
兄とは種類が違う自閉症ですが、自閉症という障がいの共通点で見ていたドラマです。
3.僕の歩く道
社会人1年目で1人暮らしをはじめたころ見ていたドラマです。知的を伴なう自閉症を扱った作品で、主人公は先天的な障がいにより、10歳程度の知能までしか発達しなかった自閉症の青年で、ドラマを見ていた時、兄にもあるあると共感する部分が多かった作品です。また、きょうだい児の気持ちもふれているところも作品の魅力であったのではないかと私は思います。
まさに、自閉症の青年は私の兄そっくりでした。しかし、兄にくらべ自閉症の青年は、言葉はしゃべっている、長さの単位がわかっているところがしっかりしているなと思いました。
自閉症を中心に取り扱ったコラム
1つ目
2つ目
3つ目
心のバリアフリーを実現しよう
自閉症の方に出会ったらあなたはどうしますか?今までは、かかわり方が良く分からなくて無視する、視界に入れないようにしてきたかもしれません。
しかし、自閉症の人が望むのはそんな環境ではなく、「自閉症OK」の「心のバリアフリー」の環境です。
自閉症の方は、その特性から、正しい理解と適切な支援が必要です。少しでも自閉症の方が暮らしやすい社会、「心のバリアフリー」を実現してほしいと思い今回のコラムを書かせていただきました。もし、身近に自閉症の方がいてかかわり方に困ったならば今回のコラムを参考にしてみてください。