そらまめくん&くれよんのくろくん 絵本と靴下 それぞれの制作者の”ものづくり”対談 後編
(撮影・鈴木 敦)
子どもたちが大好きな絵本「くれよんのくろくん」と「そらまめくん」。どちらも絵本作家なかや みわさんの作品です。今年2021年秋、絵本の世界観そのままに「くれよんのくろくん」「そらまめくん」が靴下になりました!
そこで今回は、なかや みわさんと靴下制作を担当したライブエンタープライズの久保さんに靴下の制作過程の秘話についてうかがいました。お二人の制作スタイルやこだわり、絵本に対する思いなどに迫る対談コラム【後編】です。
はじめての絵本「そらまめくんのベッド」が福音館書店から出版
久保さん:
はじめての絵本となる「そらまめくんのベッド」は、福音館書店に持ち込んだんですよね。
なかやさん:
そうです。画用紙を張り合わせた手作り絵本で、福音館に持っていったら運よく採用していただきました。
久保さん:
すごいですね。出版社って持ち込んで、すぐ見てもらえるものなんですか?
なかやさん:
当時は見てくれました。今はもう持ち込みが多すぎて対応できないようです。絵本は必ず裏に編集部、販売部の連絡先が書いてあるんです。だから、そこに電話して「見てもらえますか?」というとたいていの編集者が時間を作ってくれて見てくれました。奥付に編集者の名前もあって、その人に直接電話もできましたし、感想やアドバイスも受けられたり、いい時代でした。
持ち込みの方法などは、会社を辞める前に参加していた絵本のワークショップで習いました。そこでは現役の絵本作家や編集者が講義してくれて、作り方とか出版社への売り込み方とか、いろいろ教えてくれました。その時に作った手作り絵本が「そらまめくんのベッド」で、福音館に持ち込んで採用が決まりました。
久保さん:
1冊目で採用ってすごいですね。ワークショップってどんな人がくるんでしょう?
なかやさん:
いろんな人が来てましたよ。もちろんほとんどが絵本作家を目指す人ですが、孫のために絵本を作りたい人や、習い事感覚の人もいました。絵本って作り方がバラバラなイメージですが、決まりごとはあって、ページ数や年齢層を意識しなくてはいけません。ネットもない時代だったので本当にいろんな情報をここで集めました。
自分の描いた絵本のグッズを使っている子供を見ると嬉しい
久保さん:
絵本のくつしたはこれまでに20作品ほど(2021年9月現在)作らせてもらっているんですが、それぞれ愛着がわきますね。買っていただいた方はもちろん、書店のスタッフさんも売り場をSNSでアップしてくれたりして達成感を感じました。なかやさんはいかがですか?
なかやさん:
そうですね。数が揃うと見応えがありますね。最初はダイレクトに手応えを感じたくて、売り場に出かけてお客さんのふりをして買ったこともあります。絵本を読んでくれている人を見ると作った苦労も吹っ飛びます。
久保さん:
制作においては初めてのことが多く、自分のスキルとしてどう取り込んで完成させるか試行錯誤は今も続いていますが、「絵本のくつした」としてのブランディングは少しずつ固まってきました。冬に限定商品も出すので、その展開を考えるのは楽しいですね。
なかやさん:
絵本と靴下ってかけ離れているようで、意外と相性がいいですよね。いくつ持っていても選んだりするのが楽しいですし。価格も低すぎず高すぎず、絶妙だと思いますよ。
何よりいいのは絵本と並べて売れること。昔は日本の絵本のグッズって、洋書と違ってほぼなかったんです。理由は、販路が難しいからです。本屋さんって出版取次があって、そもそも本と雑貨ではバーコードの種類が違って、絵本とグッズを並べて売るは難しい。なので、本屋さんで売れるライブエンタープライズさんの販路には驚きました。
久保さん:
嬉しいです。今500店舗くらい(2021年11月現在)の書店さんに置いてもらっていて、反応もいいんです。幅広い世代の方に長く支持されるものに成長させたいと思っています。
なかやさん:
「絵本のくつした」は絵本の世界観そのままなので、絵本と一緒にプレゼントしてもいいですね!ライブエンタープライズさんはデザイン、アイテム、販路、価格、全部マッチングできているので期待しています。絵本って丁寧に扱うと、次の世代の子にしっかりと引き継がれていくんですよね。きっとこの靴下も同じ。絵本の性質を理解したグッズ展開で、世界観を荒らされず、グッズ先行でない安心感もあります。長い間愛される商品になってくれると思いますよ。
絵本作家の日常って?
久保さん:
なかやさんには、作った作品をビジネスとして捉える視点を感じました。
なかやさん:
そうかもしれません。あまり作家っぽくないですよね・・・。絵本作家さんとお会いすると、描くのが好きで仕方ないという方ばかりです。ご飯を食べるのと同じ感覚で絵を描き、日頃の習慣で常にスケッチブックを持ち歩いているので、とてもかなわないなと思います。
私はもともと可愛いグッズやキャラクターに興味を持っていたので、商業的な考え方は常に頭にあって。描くことももちろん楽しいですが、仕事に関わってくれたみんなに利益が出ると達成感を感じるタイプなんです。
久保さん:
それで今、近い感覚でお話しできているんですね。ちなみに制作活動はいつやってますか?自宅でのモチベーション維持の方法を教えてください。
なかやさん:
私は会社員の方と同じように時間を決めて作業しています。納期も前倒しでやるようにしています。夜間も忙しいときは仕方なく・・・という感じですが、健康を損ねるような働き方はムダなのでやりません。結局、会社でも家でもやることは同じなので、モチベーションは下がらないと思いますが、家でのほうがのめり込んで昼食を忘れる方が多いのではないでしょうか?だから、テレワーク中の会社員さんは働きすぎに注意してくださいね!
久保さん:
私も自宅で仕事をすることがありますが、確かに家のほうが集中して捗る部分もありますね。ところで日々の生活で大切にしてることはありますか?
なかやさん:
コロナ禍になって、より健康を意識するようになり、朝6時に起きて朝日を浴びるようにしています。また、舌磨きは必ずやるなど、口腔内の清潔も気にしています。風邪っぽいときは無理をせず、寝込む前に休む。そのせいかここ10年、寝込んだことはないですよ。とはいっても、あんまり体を動かさないので不健康かも・・・無精者で家が好きなんです。
久保さん:
食事や生活面はどうですか?好きなモノ・コトがあれば教えてください。
なかやさん:
私、ほとんど好き嫌いがなく、たくさん食べるんです。野菜は大好きでいくらでも!男の人と同じぐらいの量を食べるので驚かれますね(笑)
生活面では常に整理整頓、余分なものは持たず、シンプルにしたいとは思っています。ただ、息子と夫がいるので、なかなか思い通りにはいかないです(笑)。いらないものを捨てると気持ちいいですよ。昔はモノに執着がありましたが、どんどんシンプルになってきました。捨てるとスッキリするので、仕事が終わると全部捨ててしまいます。以前、MOE(絵本情報誌:白泉社出版)で巻頭特集を依頼された時、素材や原画のラフなどを提供してくださいといわれたんですが、本当に何もなくてとても困りました。服も厳選して自分のお気に入りのものだけを着まわしてます。
久保さん:
共通点があって嬉しいです。私も同じ服を3枚持ってたりします。余計なものがあると気をとられるし、探すのも面倒で何がどこにあるのか把握しておきたいタイプです。モノに溢れていた過去もありますが、減らすと思考もシンプルになって心地いいですね。
絵本の世界観を共有できたのが靴下をつくるきっかけ
久保さん:
絵本作家の友人や、尊敬する絵本作家さんなどはいらっしゃいますか?
なかやさん:
絵本作家の友人と気やすく言えるほどではないかもしれませんが、いりやまさとしさんです。同じ担当編集者さんだったことがご縁で、とても良くしていただいています。好きな絵本作家は、「がまくんとかえるくん」のアーノルド=ローベルさんや、「だるまちゃんとてんぐちゃん」のかこさとし先生です。
久保さん:
ご自身の絵本作品で最初に作ったグッズってどんなものだったんですか?
なかやさん:
最初に作ったのは販促物の携帯ストラップです。多くの絵本作家は、出版社、エージェントと契約してグッズを作ると思うんですが、私はグッズを作るなら絵本が好きで世界観を大事にしてくれる方と直接関わって作りたいので、そんなに多くは作れません。だからグッズの数はとても少ないんです。
久保さん:
そんな中で今回の靴下は、ビジョンを持っていただけたんですね。ありがとうございます。
なかやさん:
商品販売先行ではなく、絵本の内容をよく知った方にオファーをいただけるのはありがたいです。絵本の世界観を荒らされるのは避けたかったので、絵本のことをわかってくれている方なら安心して仕事ができると思ったんです。
久保さん:
絵本を扱うときは慎重ですね。作家さんの魂のこもった作品なので、中途半端なものを世に出すわけにはいかないです。今回は、お互い納得いくものが作れて嬉しかったです。
なかやさん:
はい!これからも素敵な商品を一緒に作っていきましょう!どうぞよろしくお願いします。
「そらまめくんのベッド」「くれよんのくろくん」の世界観そのままの靴下。なかやさんの思いや製作者の思いがぎっしり詰まっています。子供さんのプレゼントはもちろん、親子で一緒に履いて楽しんでみませんか。
1971年埼玉県生まれ。女子美術大学短期大学部グラフィックデザイン教室卒業。企業のキャラクターデザイナーを経て、絵本作家になる。著書に「そらまめくん」シリーズ(福音館・小学館)、「ばすくん」シリーズ(小学館)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)、「どんぐりむら」シリーズ(学研プラス)、「こぐまのくうぴい」シリーズ(ミキハウス)、「やさいのがっこう」シリーズ(白泉社)など、人気作多数。愛らしいキャラクターたちが活躍する絵本作品は、たくさんの親子から大きな支持を得ている。(撮影・鈴木 敦)