
静けさの物語、白の絵本。余白が語りかける、心豊かな時間
2026年2月8日
朝の光が、白い壁に飾られた絵本をそっと照らす。ページをめくるたび、広がる余白に、心がほどけていく。
「白」をまとう絵本たち。5つの物語との出会い
本屋さんで絵本を選ぶとき、まず目に飛び込んでくるのは表紙の色。白い表紙の絵本は、どこか特別な静けさを湛えているように感じませんか?
酒井駒子さんの『よるくま』は、深い青色の背景に、白い雪のようなものが舞う表紙が印象的。夜の闇を表現する深い色調の中で、雪や月の光を象徴する白が、物語に情緒的な深みを与えています。

よるくま2版
酒井駒子
偕成社(1999年)
ISBN: 978-4-0333-1230-9
林明子さんの『はじめてのおつかい』は、主人公のみいちゃんが描かれた表紙に、広々とした白い余白が印象的。みいちゃんの決意と、これから始まる冒険への少しの不安が、その余白から伝わってくるようです。

かわ
加古里子
株式会社 福音館書店(1966年)
ISBN: 978-4-8340-0067-2
いわさきちひろさんの絵本は、水彩のにじみが特徴的。白い紙の上に広がる淡い色彩が、透明感のある世界を作り出しています。特に雨の日の情景を描いた作品は、雨の匂いやしっとりとした空気感が伝わってくるようです。
五味太郎さんの『きんぎょが にげた』は、シンプルな線と色使いが特徴。白い背景に赤い金魚が映え、そのコントラストが目を引きます。金魚を探すというシンプルな遊びを通して、子どもたちの想像力を掻き立てる絵本です。

きんぎょが にげた
五味太郎
株式会社 福音館書店(1982年)
ISBN: 978-4-8340-0899-9
駒形克己さんの『LITTLE EYES』シリーズは、赤ちゃんのために作られた絵本。白と黒のコントラストがはっきりとしたシンプルな図形が特徴で、赤ちゃんの視覚を刺激します。ページ全体が広大な白に覆われ、そこに一つだけ図形が置かれる構成は、集中力が未発達な幼児に対する深い配慮に基づいています。
余白は「間」。日本の美意識が息づく絵本

日本の伝統的な美意識には、「間」という考え方があります。これは、単に何もない空間のことではなく、そこに意味を見出すというもの。絵本における余白も、同じように考えることができるかもしれません。
余白があることで、絵を見る人の視線は自然と絵の中心に向かいます。そして、その余白の中で、物語は静かに、しかし確実に語りかけてくるのです。谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中で、日本の美学は「影や暗がりのなかに奥行きを見出し、見えない部分を慈しむこと」にあると述べています。現代においては、グラフィックデザイナーの原研哉氏が提唱する「白」の概念が、絵本デザインの指針として重要視されています。原氏は、白を単なる「色」ではなく、情報を受け入れるための「空」として再定義しました。

陰翳礼讃
谷崎潤一郎/大川裕弘
パイインターナショナル(2018年)
ISBN: 978-4-7562-5012-4
ミニマルな絵本が教えてくれる、海外の感性

海外の絵本にも、余白を活かしたミニマルなデザインのものが数多くあります。
例えば、ブルーノ・ムナーリの絵本は、シンプルな形と色使いで、子どもたちの創造力を刺激します。彼は、紙に開けられた穴(ダイカット)を、前後のページを繋ぐ「余白のトンネル」として機能させました。彼の絵本は、大人が見ても新鮮で、新しい発見があるでしょう。
「白」と「物語」が織りなす、あなただけの風景
白い壁に、お気に入りの絵本を飾ってみる。木の棚に、白い表紙の絵本を並べてみる。それだけで、部屋の雰囲気が変わるかもしれません。
朝、陽の光を浴びながら、絵本を手に取る。ページをめくるたびに、心が静かになっていく。そんな時間を持つことができたら、日々の暮らしはもっと豊かになるかもしれません。こんな部屋、いいなと思った。
急がない朝に、絵本を開くということ
忙しい毎日の中で、つい忘れがちな心の余裕。絵本を開く時間は、そんな余裕を取り戻すための、ささやかなきっかけになるかもしれません。「正解のない時間」を過ごすことの価値を、改めて感じてみませんか。
白い絵本をそっと手に取り、ページをめくる。広がる余白に、あなただけの物語が生まれる。そんな静かな時間が、日々の暮らしを豊かに彩ってくれるはず。
参考・出典
- 陰翳礼讃(谷崎潤一郎による随筆。日本の美意識について考察されている。)
- 愛知教育大学学術情報リポジトリ, ストーリー絵本における余白の使用法(絵本における余白の役割について分析した論文。) https://aue.repo.nii.ac.jp/record/5329/files/shuron-24-22.pdf