そらまめくん&くれよんのくろくん 絵本と靴下 それぞれの制作者の”ものづくり”対談 前編
(撮影・鈴木 敦)
子どもたちが大好きな絵本「くれよんのくろくん」と「そらまめくん」。どちらも絵本作家なかや みわさんの作品です。今年2021年秋、絵本の世界観そのままに「くれよんのくろくん」「そらまめくん」が靴下になりました!
そこで今回は、なかや みわさんと靴下制作を担当した久保さんに靴下の制作過程の秘話についてうかがいました。お二人の制作スタイルやこだわり、絵本に対する思いなどに迫る対談コラム【前編】です。
絵本の靴下を作りたい
久保さん:
靴下制作の過程では、なかやさんに思いを汲み取っていただき助かりました。ありがとうございました。そもそも絵本の靴下を作ろうという話になったのは、書店の中に絵本のキャラクターグッズの売り場を作ろうという話になったからなんです。靴下であれば、売り場を圧迫せず、立ち寄って気軽に手に取っていただける価格帯であるという課題をクリアにできると思いまして。おうちに何足あってもいいですし、贈り物としても選ばれやすく、喜んでもらえるのではと考えました。
なかやさん:
こちらこそ、私の思いを汲んでいただきありがとうございました。絵本の絵を靴下の中に落とし込むのって大変じゃないですか!自分も靴下のデザインをやったことがあるので、その辺の苦労は分かってます。最初平面で書いて色をつけて作ったものがニット上になると、え?ちょっと違う!という感じになるんですよね(笑)
久保さん:
そうなんです。絵本の絵を靴下に落とし込むのにはまず製造上の制約を理解する必要がありました。それに、ただきれいに出来ているだけでもダメだし、手にとってもらえて喜んでもらえること、絵本の世界観と合っていることなど考えることは多かったです。
なかやさん:
自分が描いたイラストだと しょうがないかな、で済むけれど、他人のはそうはいかないので、久保さん、大変だったと思います。作家さんに、なにこれ?と思われる恐怖心もある。特に靴下って、平面の絵は可愛いけど立体の靴下にすると違和感が出てくるアイテムですよね。
限界まで色糸を使って「そらまめくんのベッド」の世界観を演出
久保さん:
絵本の世界観を伝えるために、まず糸の色の数を限界まで使おうと思いました。糸の編目の数も最初から決まっているので、その中で絵柄を表現しなければならないこと、糸の色数に制限があること、靴下が伸縮性のあるニット素材ということなど、課題はたくさんありました。
絵本の絵をそのままプリント印刷して作るという方法もあったかもしれませんが、それではチープな印象になってしまう。やはり「絵本の靴下」として世の中に出すなら、見た目や手触りや履き心地などを含め作品の価値を落とさないものでなければダメなんです。こだわりが感じられて愛されるものをと思って、すべて糸の編みのデザインで作りました。
なかやさん:
その気持ちは伝わりました。洋服を含め、今までいろんなグッズを作ったけれど靴下は難しいです。絵本って微妙な色が多いでしょう?はじめ、そらまめくんもパステルの色をニットの色にするのって厳しいだろうと思っていたんですが、微妙な色がよく出ていて良かったです。色のチョイスってデザイナーさんの感覚で左右されてしまいますが、久保さんの場合、色の修正はありませんでした。
久保さん:
嬉しいです…!細かいところに気が付いていただいて。靴下は”7色機”と呼ばれる機械で織られるので使える糸は7色なんですが、例えば「そらまめくんのベッド」の靴下では生産工場との話し合いや工夫を重ね、技術面でもカバーしてもらってトータルで11色の糸を使用しています。それでも”たった11色”しか使えないので、その限られた色数でどう再現するかでかなり悩みました。「くれよんのくろくん」は、どう配置すると絵柄が違和感なく綺麗に作れるかなど、勉強になりました。
なかやさん:
難しいデザインなのでどうなるのかと思いましたが、うまくはめてもらえて安心しました。「くれよんのくろくん」は、たくさんキャラクターがいるので大変だったと思います。キャラクターの表情をわかりやすくするために、まつげのあるキャラクターは私の方からまつげを外してもらう指示をしました。このように細かい修正をお願いするとすぐに反映してくれるのでありがたかったです。
そらまめくん誕生秘話。絵本作家を目指すまで
久保さん:
そらまめくんの元となるものは、なかやさんがサンリオに在籍していた時代に作ったそうですね。
なかやさん:
そうなんです。サンリオって有名なキャラクターも多いけれど、新しいキャラ制作もしており、デザイナーがたくさん在籍しているんです。時々そこでデザイナー全員が提出するコンペなどもあるんですが、そのときに提案した一つがそらまめくんです。
当時、両親がガーデニング好きで、実家で色々なものを植えていたんですが、その頃植えられていたのが豆。たまたま身近にあったので豆のキャラクターを作って提案したんです。その時のカラーコピーをたまたま控えとして取っておいていたのが、絵本のそら豆くんにつながりました。
久保さん:
そこから絵本へはどうやってつながったんですか?
なかやさん:
サンリオで働いている頃は朝早く出勤して夜も遅くて、とても忙しかったんです。それにキャラクタービジネスのサイクルが早くて、このままキャラクターデザイナーとしてやっていけるのかとても悩んでいた頃、洋書というか海外の絵本やそのグッズが好きでよくソニプラ(ソニープラザ=現・PLAZA)に行っていたんですね。「ぞうのババール」とか「おさるのジョージ」などのグッズもたくさんあって、よく買っていました。
そんなある日、洋書ではなく日本の絵本をたまには見てみようかなと思ったんです。そうしたら「ぐりとぐら」や「だるまちゃんとてんぐちゃん」など、子どもの頃大好きだった絵本がたくさん並んでいて驚きました!復刻版フェアなのかと思ったんですが、そうではなくて、いつ行ってもずっと変わらずどの書店にも古い絵本が置いてあって、今の子どもたちが喜んで読むんです!!
それで絵本は息が長くて、世界観が詰まってて良い仕事だなと思いました。でも、その頃の日本には洋書みたいな絵本グッズはなかった。じゃあ、日本でも作ればいいのに!私がいつか作りたい!!最初はそんな思いから絵本作家を目指すようになりました。
そもそもキャラクターを考えたり、キャラクターからお話を作ったりするのが好きでサンリオに入社したんです。短大を卒業したのが20歳。そして3年働いて辞めた時が23歳でした。全く当てはないけれど若かったので、絵本作家を目指してみようと思いました。もし3年頑張ってみて無理でもまだ26歳ですし、そこから再就職するつもりで考えていました。
つづきは後編へ。「そらまめくんのベッド」ができるまでのエピソード、絵本作家としてのなかやさんに迫ります!
1971年埼玉県生まれ。女子美術大学短期大学部グラフィックデザイン教室卒業。企業のキャラクターデザイナーを経て、絵本作家になる。著書に「そらまめくん」シリーズ(福音館・小学館)、「ばすくん」シリーズ(小学館)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)、「どんぐりむら」シリーズ(学研プラス)、「こぐまのくうぴい」シリーズ(ミキハウス)、「やさいのがっこう」シリーズ(白泉社)など、人気作多数。愛らしいキャラクターたちが活躍する絵本作品は、たくさんの親子から大きな支持を得ている。(撮影・鈴木 敦)