『親子の時間研究所』x『KATARIGI』 想いをかたちに~開発ストーリー~
《はじまり》私たちにできること
石垣島で木工所を営むKATARIGI。
ブランドマネージャーを務める上原千香子さんは、島の子どもたちのことを考え一人悩んでいました。
それは4月半ば、全国的にコロナ禍真っ只中、石垣島でも子どもたちはこれまでのように友達と遊ぶことが難しい状況でした。
さらに島では子どもが沢山いる家庭が多く、大人たちも子どもたちを飽きさせないように、日々を過ごすことに限界を感じ始めているという声が私たちにも聞こえてきました。
【うえざと木工は島の木工所。】
私たちの木工所は地域の方々からのご依頼で成り立っている。
そんな島の木工所のブランドであるKATARIGIとして、【地域の方に向けてできることは何かないのか?】と皆で考える日々が続きました。
その時、【島の木を使ったものづくりの体験を提案することで、家族の中で楽しい時間を過ごすお手伝いをする事ができるのでは】と思いたったのです。
出会い
以前スタッフの誰かが「木で作った鉄砲があるよ」と、とあるゴム鉄砲を会社に持ってきたことを思い出しました。(後に持ち主は社長と判明)。
ちょっと変わったゴム鉄砲はベニヤ板とネジ使い自分で組み立てる構造で、レーザーによる焼込みをしています。
なによりおもしろいのは、ゴムが連射で飛ばせるゴム鉄砲。
その特徴が私の記憶を呼び覚ましました。
【これならばKATARIGIの設備で生産が可能だ】
時間を持て余しがちな小学生向けの遊びとして最適だ。遊ぶだけでなく、組み立てる楽しさもあり、そこから学べることもいっぱいある。
組み立てるのが簡単すぎず、難しすぎない構造がちょうどよく、ちゃんと達成感を味わえる。
これは、近くの大人とコミュニケーションを取りながら作り上げるにはとても良い教材になると感じました。
そして、遊ぶときも一人で遊ぶよりも複数人で遊ぶ方が盛り上がるので家族で楽しめる!スタッフからも「うちの子たちもゴム鉄砲が大好きで兄弟で取り合っているよ~」と、ゴム鉄砲を手に笑顔で遊ぶ子どもたちの顔が目に浮かんできました。
想いをカタチに
【すぐに子どもたちに届けたい】
ゴム鉄砲を一から図面を起こすのは難しいと感じたため、まずは自由に使用できるフリーの図面をインターネットで探してみました。
いくつか出てきましたが、どれも組み立ての工程が大人向けで難しかったり、複雑なパーツを使用したりと、小学生向けに製作販売するには現実的ではないものばかりでした。
さて困ったと思案していると、手元にあったスタッフのゴム鉄砲はシンプルで分かりやすく、組み立ての難易度がちょうど良く、さらに【6連射】という機能がとんでもなく格好よく思えた。
そこで、ダメもとで製造元であるライブエンタープライズに電話で問い合わせをしてみました。(以下、ライブエンタープライズ⇒ライブ)
はじめは担当の方が不在とのことで「ゴム鉄砲の図面を使わせてもらえないか」という用件のみを伝え折り返しの連絡を待っていたところ、すぐに担当さんからお電話が。
最初はゴム鉄砲の図面を使わせてもらえないかとの話のつもりが、私たちのものづくりや島の子どもたちへの想いが、ライブのものづくりへの想いが同じベクトルだと感じ始めました。
【一緒に子どもたちのために何か面白いことをやりましょう】
担当の大木さんから一声で、私たちKATARIGIとライブは一緒にこの企画をスタートさせることになりました。
《開発スタート》子どもへの想いをこめて
共感
【子どものためのモノづくり】
問い合わせをする際に抱いたライブのものづくりは、親子のために様々な視点から考えられた企画がたくさん詰まっていて、親子に寄り添った温かさを感じました。
私たちKATARIGIは、島の木や先人の知恵を後世に伝えたいという想いをもって立ち上げたブランドであり、特に後世を担う【子どもたちに向けた商品や企画】をと考えていたので 、まさに同じ方向を向いていると感じました。
島の昔話の発掘
KATARIGIでデザインするからには八重山らしさを取り入れないことには意味がない。
さらに【鉄砲=撃ち落とす】というイメージよりも、流れ星が当たるような【平和なイメージで作りたい】というところからコンセプトを考え始めました。
ゴム鉄砲で遊ぶことを通して、八重山の昔話を知るきっかけになれば良いとも想い、むりぶし(昴のこと)を謡った「むりぶしユンタ」と「七星ユングトゥ」という八重山の民謡を元に鉄砲と的のデザインを考えました。
的に輪ゴムを当てるのは「むりぶし6兄弟達を全員集めることで島を平和に治める」という事をイメージしています。鉄砲が6連射式なのもぴったりです。
喜ぶ、作れる、楽しめる
男の子も女の子も興味を持ってくれるように、先端の留め具を星の形にしました。
また、グリップの一部とトリガー部分を、石垣島の代表的な木である【ヤラブ(テリハボク)】にすることで自然と島の木に触れてもらうようにしました。長く楽しんでもらえるようにダメージを受けやすい回転翼を丈夫なアクリル製に変更しました。
グリップ部分は島の木を引き立たせるために、あえて少し厚みを持たせて浮き上がるような設計に。
試作段階では他のパーツとの位置関係に問題が生じ試行錯誤の連続でしたが、「島の木への想い」を盛り込みました。
安全性
もともとライブでも、子どもたちが安全に楽しめるように設計はされていましたが、KATARIGI独自のこだわりも入っています。
それは、ヤラブの位置決め。
鉄砲の一部に島の木を使用したいと考えていましたが、無垢の木は薄くすると反りやすく、小さくすると欠けやすい性質があるため、どこにどのくらいのサイズで使用するか決定するのに大変な時間を要しました。
それでも島の木を使用して、安全に配慮した設計ができるのではと考え続け、最終的によく触れるグリップの一部と摩耗が起こりやすいトリガー部分)に採用することになりました。(ベニヤよりもヤラブの方が堅くて丈夫なため。)
子どもたちが手に届く価格でなければ
試作段階の見積もりではコストが目標をかなりオーバーしていました。
島の子どもたちに届けるには、親が購入しやすい価格に設定する必要があるため様々な工夫をしました。
まずベニヤは工場で出た廃材を再利用し、回転翼部分のアクリルも廃材を使用する。ベニヤのサイズも統一せずにその時ある廃材のサイズを活かし一番無駄がなく使えるようにしている。そして、梱包材もリサイクル資材を使用するなどしてコストカットだけでなく環境にも配慮することを目指しました。
コストカットを余儀なくされる中で、的を紙製にする、もしくは的は同封せずに子どもたちに自作してもらうという案も出ました。
しかし、【むりぶしの的】をセットにすることでデザインに込めたストーリーが完結すること、さらに的に面白さを加えることでゴム鉄砲の遊びにさらなる広がりが見える可能性を捨てたくなかったことなどから、的は妥協せずにこだわりを持って製作することにしました。
《編集後記》
【むりぶしの的】は、耐久性もあり組み立ても簡単で、パタッと倒れる感触がなんとも楽しい作りになっているそうです。
的に当ててむりぶし6兄弟を全員集める、という遊び方だけでなく、倒れた時に見える裏面に好きなことを書いて遊ぶのも楽しいですね。
ブランドマネージャーの上原さんは、「ぜひ家族で点数や好きなおやつ、親からのお願い事など、自由に書いたりして家族で独自のルールを作って楽しんでもらえたら嬉しいです。」との想いをお話しいただきました。
また、的のパーツを付け替えることで、星と裏面との組み合わせを自由に変える事ができ、的を倒すまで裏面が分からないドキドキをいつまでも楽しめるのもポイントだそうです。
子どもたちの自由な発想で、いっぱい楽しみを見つけてほしい!そんな願いのこもった【ゴム鉄砲】ができました。
KATARIGI
「KATARIGI 」は、「語り木」。
私たちは、木を「生き物」として捉えています。
特に島材は生命力にあふれ、魂を感じます。
木の質感や手触りは五感で楽しめるものですが、
長く使うほどその味わいは深くなっていきます。
愛情を込めて使えば使うほど、愛情を返してくれる。
まるで、大切な何かを語りかけてくるように・・・。
「KATARIGI 」の製品が、あなたのもとに届き、
「親から子へ、次の世代へと繋いでいく大切なもの」
になれば、こんなに嬉しいことはありません。
「使い捨て」が多い現代のなかで、
「長くつき合うもの、愛すべきもの」に
囲まれて暮らす幸せをお届けしたいと、
私たちは願っています。