きょうをだきしめる~子どもの言葉をつかまえる~
こんにちは。
イラストレーター、絵本創作家のはっとりまりです。
1回目のコラムをご覧いただきました皆さま、どうもありがとうございました。
お母さん、イラストレーター、保育士(前職は保育士でした。)という立場で、このコラムを書かせていただいています。
2回目は、子どもとの会話や、子どもの言葉について書きました。
子どもと会話
©2018 Mari Hattori
みなさんは、お子さんとの会話を楽しんでいらっしゃいますか。
2歳頃になると、次第に言葉を覚えて、話し始める子が多くなりますね。そして、3歳、4歳、5歳・・・と年齢を重ねていくうちに、話す内容も高度化していきます。
子どもは、これまで生きてきた経験の中から覚えた言葉を組み合わせて、一生懸命話します。
そんな時、身近な大人がその話に耳を傾ければ傾けるほど、話をすること、伝えることの楽しさを味わうことができます。
また、子どもの言葉に寄り添いながら会話をすることで、更に言葉を獲得し、他者の気持ちを知る経験を重ねることになるのです。
子どもが何気なく発したおもしろい言葉、子どもならではの詩的な表現を聞くことができることも、子どもとの会話の醍醐味です。自由な言葉の組み合わせにハッとしたり、思わずホロリとしたり、こちらの心も柔らかに光が灯るようです。
けれども、毎日毎日の繰り返しの中で、心の余裕をもって子どもの話を聞くことができる時間はそれほど多くはありません。
ついつい、「ねぇ、お母さん。」の呼びかけに、「ごめん、今ちょっと待って。」「後で聞くね。」こんなことを言って、子どもとの会話の機会を逸してしまうのです。
この、「ちょっと待って。」「後で聞く。」を子どもはしっかり覚えています。私は、あまり時間が経たないうちに、(時間が経つと、子どもは話したかった内容を忘れてしまいます。)「さっきはごめんね。今なら聞けるよ。」・「さっきの話なんだけど・・・。」とこちらから切り出すことを忘れずに、心に留めておくようにしています。
この時、また話をしてくれることもありますが、子どもの方にもいろいろ事情がありますから、遊びに夢中の時などは、「また後で。」・「忘れちゃった。」と言われてしまうこともあります。この場合は、身勝手なもので、ああ。聞き逃した、残念、、、と思うのです。
そこで、昨年の秋頃から、子どもの言葉を絵と文字の作品として残すことにしました。「きょうをだきしめる」とタイトルをつけて、シリーズにすることにしました。
「きょうをだきしめる」のテーマ
©2018 Mari Hattori
<<子どもが何気なく発した言葉に思いがけず新鮮な感動を覚えることがある。覚えたての言葉の組み合わせで一生懸命話をする子どもの瞳はキラキラしていて、体全体から生命力が溢れているみたい。その一瞬をつかまえて絵にしたいと思った。>>
このテーマは、今しか聞けない子どもの言葉を残したいという気持ちはもちろんですが、日々の自分への戒めでもありました。
無意識に流してしまった子どもの言葉を意識すること。
ハッとしたらメモをとること。
子育てをしているこの時期にしか味わえない、子どもからの贈り物を大切にすること。
明日ではなく、昨日でもなく、その日その日の子どもとの時間を大切に、頭ではわかっていても忙しさや日々の生活に流されてしまって、できていないことを意識してみようということです。
このちょっとした意識と、作品に残すというプレッシャーも手伝って、「ちょっと待って」・「後で聞く」が少しずつ減って、子どもの話を受け止める時間が増えました。「ネタになる!」というよこしまな思いもあるにはあるのですが・・・。
私がこれまでつかまえて、作品にした絵と言葉を数点ご紹介いたします。
娘が4歳から5歳になりたての頃の言葉です。画材はオイルパステルと色鉛筆です。
イメージを具体的に描いたものが多いのですが、最近少し考え直して、絵の雰囲気や画材を変えて、イメージ優先にしてみようかと思案中です。
©2017 Mari Hattori
2017年秋 『もみじのて』
オイルパステル・色鉛筆
「おかあさん、だいじょうぶ? おねつがさがる まほうの てだよ。」
©2017 Mari Hattori
2017年秋 『おばけ』
オイルパステル・色鉛筆
「あさは おばけは いないんだよ。あさになると とけちゃうんだよ。」
©2017 Mari Hattori
2017年秋 『ゆめ』
オイルパステル・色鉛筆
「おほしさま きょう ゆめみないから ゆめ しまっておいて。」
©2017 Mari Hattori
2017年秋 『かみさま』
オイルパステル・色鉛筆
「うちゅうに いたんだけど おかあさんの おなかに しゅーんって はいったんだよ。 しゅーんって。」
©2017 Mari Hattori
2017年秋 『おなか』
オイルパステル・色鉛筆
「かみさまは くものうえで ねころんでいるんだよ。 いつも そらを みているから しっているの。」
「きょうをだきしめる」の土台となったもの
公立の保育園で非常勤をしていたころ、子どもとの関わりの中で印象に残った言葉や場面を、毎日1ページずつノートに記録する、という宿題が出されました。
忙しい保育の仕事の上に、更に宿題が出されたことで、保育士さんたちの間に賛否両論ありましたが、私はなぜかこの宿題が嫌いではありませんでした。
考えてもなかなか書き出せないこともあり、数時間を費やすこともありましたが、これはある種の訓練と同じで、クラスの子どもたちの1日を思い出しながら、毎日無理やりでも記憶の片隅に残った言葉や場面をノートに書き連ねているうちに、次第に書けるようになっていきました。
そして、結果的にこのノートは、日々の保育の記録となり、クラスの子どもたちのことをより深く知ることにも繋がったのです。
私は、このノートをきっかけに、子どもの何気ないひとことや、子どもとの会話の中にこそ、その子の内面に関わるたくさんのヒントがあることを知りました。そして、一人ひとりの子どもの話にじっと耳を傾けることは、子どもの育ちにとって、もっとも大切なことのひとつだと気付き、この宿題とノートの大切さを理解しました。
また、出産を機に、福音館書店さんの雑誌『母の友』を毎月購読しているのですが、「母の友」に、「こどものひろば」というコーナーがあります。
読者のお母さん方(或いはお父さん方)が、子どもが発した面白い言葉を投稿すると、その中から詩人の工藤直子さんが選定した2人~3人分のなんとも微笑ましい言葉が、カメラマンの繁延あづささんの写真とともに掲載されるコーナーです。
私はこのコーナーが好きです。
子どもの言った言葉はもちろんですが、それを受け止めて、おもしろいと感じたお母さん、お父さんの、ひだまりのような温かいまなざしを感じることができるからです。
「きょうをだきしめる」は、保育士時代のノートと雑誌『母の友』の「こどものひろば」のコーナーをヒントに作品化していたのだと、この文章を書きながら、改めてわかったのでした。
シリーズ「きょうをだきしめる」は、イベントなどで時々披露する機会がありました。その度に、子育て中のお母さん方から「うちの子も同じことを言っていたよ。」とか、「すごくよいです!」などの感想をいただき、励みになりました。
この頃は、仕事などの絵を描くことが増え、「きょうをだきしめる」の絵を描くことがおろそかになっていました。
書き留めた言葉は日々増えていくので、少しずつ絵を増やして、作品にしていきたいと思います。
そしていつかまた、お披露目展もできたら、と思っています。
©2018 Mari Hattori
2018年 夏 『うめぼし』
水彩
「おかあさんの おっぱいの うめぼしってさあ・・・。」
*イラストの無断転載を禁止致します。