化石発掘10周年【対談】イラストレーター松島ひろしさん②
発売10周年を迎えた触れる図鑑シリーズ「化石発掘」。
その図鑑ページにある恐竜イラストを手掛けた、イラストレーター松島ひろしさんにインタビューする機会をいただきました。
【イラストレーター松島ひろし】さんってどんなひと?
都内在住のイラストレーター
映画やテレビの美術製作や、専門学校での非常勤講師といった経歴を持つ。過去の作品として、雑誌・ムック本の挿絵イラストはもちろんのこと、NHKの番組のイラストや美術製作、ゲーム「モンスターハンター」のイラストなど、活躍するジャンルは幅広い。
親子の時間研究所でも、触れる図鑑シリーズ「化石発掘」の恐竜時代のイラストや、おそらの絵本「ピコポコプー」のイラストの他、親子の時間研究所研究員として「大きな新幹線塗り絵」を開発している
前回のお話
幼少期についてお伺いした続きです。
(松倉「どんな幼少期でしたか?やはり小さい時から絵を描くことが好きだったんでしょうか?」)
松島「育ったのは田んぼと畑だらけの田舎町です。
中部地方の太平洋側、大きな河川の中流域に広がる田園地帯。用水路と堰。近くには松の木が立ち並んだ街道が走っています。最寄り駅にはみかん色の車両が止まります。
近くの線路は丘になっていて、長く繋がった貨物列車がゴトンゴトンとゆっくり跳ねたリズムを刻みながら鉄橋を渡ります。ノコギリ屋根の工場から織機の音がガシャガシャとループして、田んぼを渡って遠くからピアノ工場の調音する音階が聞こえてきます。 BGMは交響曲第6番第1楽章「田園」。…かな?(笑)」
松倉「自然豊かな土地ですね。音が聞こえてきそうなくらい、イメージし易いです」
松島「田んぼと工場があるだけのあまり個性のない地方の田舎といったところでしょうね。
それが幼い頃に取り巻いていた土地です」
松倉「のびのび成長できそうな土地ですね」
松島「ところがそれが…。私は病気がちで、小さい頃から医者の世話になることが多く自分でもうんざりするほどでした。 身体の弱いことを悲しいような恥じるような、厄介な罪悪感?も抱えておりました。」
松倉「えっ!それは意外です。元気に走り回ってそうなイメージでした!」
松島「子どもの頃は自宅で療養することが多かったです。でもまあヒマなので、自然と図鑑や漫画やテレビ、レコードを聞くことに夢中になって、時々いたずらに工作したり、絵を描いていたようです。 もちろん調子の良い時には外に出て、いろんな取り巻くアレコレを見つめていましたよ。」
松島「表立ってこれぞ自然!!なんて景色はありませんけれど、本やテレビで見た自然への憧れを代替できるアイテムはあります。田んぼはサルガッソーの海、用水路はパナマ運河、取水堰はナイアガラの滝、広い河川敷と茂った木々はアマゾンのジャングル。」
松島「テレビのヒーローのつもりで走り回ったり、漫画で覚えた釣りの技を真似てみたり。拾った石を隕石にして、落ちてた排水管を恐竜の足に見立てて軒下『ぼくの博物館』を作ったり…イメージを膨らませて遊ぶことに長けることになりました。」
松倉「何かに見立てるのは、子どもだからこそできる自由な発想の遊び方ですね。すごく楽しそうと思ってしまいました。」
松島「私が子供だった頃は、高度経済成長期と言われた時代の終わり頃です。 経済を中心に発展、開発が盛んになりインフラは整えられていったものの、その弊害として失われていくものもありました。工場はもくもくと煙を立ち上らせ、排水はドバドバと川に垂れ流されて、でこぼこ道は舗装道路へ、ダンプトラックは轟音を立て、自動車は排ガスを撒いて行き交いました。」
松倉「高度経済成長期のイメージそのままな感じがします。」
松島「そんな中、慣れ親しんだ小川が壊されてコンクリートに囲まれていく姿を見ました。 小さなところでしたが、フナやタナゴが泳ぎ、タガメやフナムシなど水生昆虫が見受けられ、うるさいぐらいのカエルの声、水草を揺らす澄んだ水、歌や漫画の中で見た景色がかろうじて残っていたのに。」
松島「川は開発によってコンクリート製の三面護岸のドブになってしまいました。 行き場を失って自浄作用を失った流れはすぐに腐って酷い匂いを放ちます。蓋をされ暗渠になった川は目に映ることも無くなって、誰も気がつかず、やがて忘れられていきました。
新しい用水路は安全で便利、匂いもせず、虫も湧かず衛生的…それまでの不便を知る大人たちは、イケイケな時代もあってその変化を好ましいものとして受けいれているようでした。」
松倉「子どもでも感じるほどの環境の変化だったのですね」
松島「ある日飼っていた金魚をそのドブになった川に放ってしまったことがあります。黒い粘液がへばりついたコンクリートの壁が揺れている中に朱色の小さな魚の、懸命に泳ぐ姿が今も思い出せます。 自己満足も甚だしい、子供の身勝手さに震えますね。」
松倉「その時はどうにかしたい一心だったんでしょうね。」
松島「工事以前は水路には草が囲み、ガサのなかを探ればいろんな生き物が顔を見せてくれたんですよ。子供ながらに記憶にあったその川を蘇らせたかったようです。でも、魚を放つだけでは意味がない。
あの金魚は私を恨んでるかしら。 子どもは無邪気に小さな命を奪い、ずっとあとになってその尊さを知るのかもしれませんね。」