食事のマナーとしつけ、あなたはどうしてる?
保育・子育てアドバイザー 研究員の上野里江です。
子どもが2.3歳になると、お箸の練習はどうしたらいいですか?とか、食べながら立ち歩くのを何とかしたい…など、食事に関する相談が増えてきます。子どもの成長と共に、身につけての欲しい食事のマナーって、色々ありますものね。
そこで今回は、食事のマナーとしつけについてお届けします。
ちゃんと出来るようにしなくては!と心を鬼にして教えているお母さん、一緒に考えてみましょう。
「いただきます」と「ごちそうさま」
保育園で、ことばを覚え始めたばかりの0歳児を担当していた時のこと。
「いただきます」と声をかけて離乳食をパクリ、ニコニコしながらほっぺたを触って「おいしい」を表現する子、食べたくないと首や手を振って「イヤイヤ」をする子、お腹がいっぱいになると両手を合わせて「ごちそうさま」をする子。
0歳児の子どもたちでも、一人一人の感じ方や表現がこんなにも違うものなんだと思いました。
そんな毎日を繰り返していたある日。とても食欲旺盛な女の子が、お皿をピカピカにして食べ終えると満足顔で「ゴリリッター!」と叫んだのです。
初めは何を言っているのか分からなかったのですが…
「ゴリリッター!」と言いながら手を合わせたのを見て「あっ、ごちそうさま?」と気づいた私。
「ゴリリッター!」は「ごちそうさま」
0歳の女の子が初めて「ごちそうさま」をことばで発した瞬間でした。
食べる前には「いただきます」
食べ終わったら「ごちそうさま」
そのことばは食事の一部になっていたのですね。
教えなくても、大人から繰り返し聞くことばは、自然と子どもの心に届くのだと実感。
子どもは身近な大人を見て、聞いて成長していく。子どもの姿は、まるで自分を映している鏡だわぁ…
そう思うと身の引き締まる思いがしました。
満足そうにニコニコしながら「ゴリリッター!」と叫んだ女の子の姿。初めての「ごちそうさま」を聞くことができて、うれしかったのを覚えています。
食事のあいさつ…あなたは、笑顔で交わしていますか?
食事のマナーは、何のため?
私自身、我が子が3.4歳の頃「お皿に手を添えて!」「口の中に食べ物が入っている時はしゃべらない!」など、
食事のマナーを身につけなきゃ!と、口うるさく言っていた時期がありました。
でも、そもそも食事のマナーって、何のために身につけるのでしょう?
赤ちゃんが手づかみでぐちゃぐちゃにしたり、顔中ベタベタになったりしても、その姿は微笑ましくもあります。
「何やってるの!」「こぼさないで」なんて、誰も言わないですよね。
それは、赤ちゃんが夢中になって食べるのは嬉しいことで、食事のマナーより赤ちゃんの食べたい気持ちを大切にしたいからだと思います。
そんな赤ちゃんから少しずつ成長すると、子どもは誰かと一緒に食べることが楽しい!と感じるようになってきます。
誰かと一緒に食べる、みんなでおいしく食べる。食事がお腹を満たすだけでなく、コミュニケーションの場になってきた時に、初めて食事のマナーが大切になってくるのではないでしょうか?
食事のマナーは一緒に食べる人への気配り、とも言えるかもしれませんね。
食べ方より意味を伝えよう
自分以外の人の気持ちを理解すること、気を配ることが食事のマナーなのではないでしょうか。
そう考えると、私は口うるさく言っているだけで、何のためにそのマナーを守るのか?ということを伝えていないことに気がつきました。
そこで、「口の中に食べ物が入っている時、しゃべるとどうなる?」「一緒に食べている人は、どう思うかな?」など、質問をして一緒に考えてみることにしました。
3.4歳頃の子どもは、自分以外の人の気持ちを想像したり、理解しようとしたり、心が成長する時期でもあります。
注意された時だけちゃんとやる、という感じだった我が子も、繰り返し一緒に考えていくうちに少しずつマナーの意味が分かってきたようでした。
子どもに食事のマナーを教えるということは、気配りを教えるということ。
やり方より意味を伝えることが大事だとあらためて感じました。
すぐに出来るようにならなくても大丈夫。
心の成長と共に身についていくのが食事のマナー。
大人がお手本を見せながら、気長に伝えていきましょうね!
子ども同士だからこそ育つもの
保育園の幼児クラスになると、給食の配膳を子どもたちが手伝うようになります。お皿の並べ方や箸の向きなど、食べる人が気持ち良く食べられるように気を配ることを経験します。
友だち同士「あー、これはお皿の絵が見えるように置いてね」「あっ、これでいい?」と声をかけ合い確認しながら準備をする子どもたち。
そして、友だちと一緒に食べる時間は、おしゃべりを楽しみながらのコミュニケーションの時間。
マナーとは?なんて固い話をしなくても、友だちのことを見ながらいいところは認め、されて嫌なことはしない、ということを子ども同士で学び合う場になっている食事の時間。
どんなことも、経験をすることで身についていくのだなぁ…と、子どもたちの成長を感じるたびにそう思います。
お箸の持ち方どう教える?
突然ですが、あなたの「利き手」は右?それとも左?
私の「利き手」は右なのですが…
実は私、3歳までは左利きだったということを母から聞かされたことがありました。
昔は、何が何でも右利きにしないと!という風潮があったのでしょうね。お箸を右手で持つ特訓をしたそうです。
その頃の記憶はないのですが、小学生の時、箸が上手く持てずにバッテンになってしまっては怒られたのを覚えています。
そして、今でもコンプレックスになっているのが、ペンの持ち方。変なクセがついてしまって、大人になった今でも美しく持てないのです。
もしかしたら、利き手ではない右手でがんばっていたからでしょうか?大人になっても、クセはなかなか直らないものです。
そんな私なので、我が子に箸の持ち方や鉛筆の持ち方を教えられる自信はなく、お手本にもなれず…。
でも、だからこそきちんと持てるようになって欲しいという思いも強く、どうしたらいいのだろう?と、悩みました。
箸もペンも、毎日のように使うもの。
大人になると「育ち」や「人となり」が出るとまで言われてしまう、大切な習慣のひとつ。
持ち方をしつけないと…でも、どんな「しつけ」をしたらいいのかしら?頭を悩ませました。
「しつけ」は間違えを直すことではない
お母さんはみんな、子どもにちゃんと「しつけ」をしなくちゃ!と思いますよね。
「しつけ」は大事だけど、どうやったらいいのだろう?
私なりに色々考えてみました。
縫い物をする時、「しつけ糸」を使うことがありますよね。「しつけ糸」は、まっすぐに縫えるように、違うところを縫わないように導いてくれるもの。
間違えたところを直す糸ではないですよね。
子どもの「しつけ」も同じだと思ったのです。
直すのではなく導く。
出来ないことを厳しく言ってきかせることではなく、将来子どもが、人として大切なことを自分で出来るように導くこと。だから、出来るようになるまで繰り返しやり方を教えていく、伝えていくことが大切なのではないでしょうか。
私自身が厳しく持ち方を直された結果上手く出来ない今があるので、無理に出来ないことをがんばらせるのはやめようと思いました。
そして、我が子が自分から「箸を持ちたい!」というのを待って、私も一緒に持ち方の練習をすることにしました。
箸を一本だけ持って、中指と人差し指で挟んで動かしてみたり、小さなものを摘まんでみたり…
ちゃんとやらせようとするとイライラするけど、すぐには出来ないものなのだ、と思っていると、少しの進歩がうれしくて自然と褒めことばも出てきました。
子どもって、繰り返しやっているうちにコツをつかんでいくのですね。いつの間にか、ちゃんと持てるようになっていた箸。
私も子どもたちのおかげで、何とか美しい箸の持ち方を習得。
でも、ペンの持ち方はなかなか克服できず…
「しつけ」の在り方、大切さをつくづく実感しています。
食事は楽しく!
食事のマナーやしつけは大切だけど、食事は楽しく!が何よりも一番大切だと私は思っています。
「しつけ」をするのは母の役目!と、子どものことを思うからこそ厳しくなる気持ち。
ちゃんとできるようにさせなきゃ!今出来ないと大人になって困るからと焦る気持ち。
私もそう思っていたので、よくわかります。
でもね。
厳しくしなくても、小さな出来た!を積み重ねて、繰り返し伝えていくことで習慣って身につくのだ!と子どもから学び、笑っていられるようになった私。
「しつけ」は厳しくしなくても、笑いながらでもできるのです。
「おっ、今日は背中が伸びてて姿勢がいいね」「いつもお箸の持ち方がきれいだね」と出来ていることをことばにして伝えると、子どもはうれしくて同じことを繰り返します。
お母さんが笑ってくれるとますますうれしくて、ちゃんと出来る自分になりたい!と思います。
そして、知らない間に出来るようになっていることが増えていきますよ。
食事は楽しく!
是非試してみて下さいね!
●プロフィール
保育・子育てアドバイザー
上野里江
HP:http://smiley-ai.com
保育士歴30年。保育園、幼稚園、子ども園で3000人以上の親子と関わり、その後3年間療育に携わる。
子どもに関わる大人を元気に笑顔に!をモットーに、コミュニケーション講座や相談を行なっている。
上野さん監修の自立を促すしつけシリーズ